塾長あいさつ

発足のきっかけは,私のところに研究相談に来ていただいた何人かの先生たちです.私の所属する名古屋市立大学小児科の医局員もいましたし,他大学の先生方も来ていただきました.基礎研究については熟練されている先生方も,臨床研究についての理解は決して十分ではないのだと痛感しました.私は優れた臨床家(小児科医)になりたい一心で診療を続けてきました.その期間の7割は腎臓小児科医としてでした.なので若い先生たちと比較すると臨床研究についての知識も一日の長があるのかもしれないと思いました.もちろん専門的に学んだ経験は皆無ですので,わずかに長けているだけです.

思い出してみると,二十数年前に同じような経験がありました.“小児腎疾患談話会”を立ち上げた時で,自分の持っている知識や哲学について腎臓小児科医を目指す若手に伝えようと考えて始めました.平成29年度には50回目を迎え,私の存在はほぼ不要になりました.それは非常に嬉しいことです.もう少しだけ人生が残っているので,もう一度繰り返せたらと思っています.

研究不正は世の中に数限りなくあります.皆さんが知っているものとしてはSTAP細胞事件があります.自殺者も出してしまい世間は大変な騒ぎでした.しかしこれは大した不正ではありません.小学生が運動会の徒競走でどべだったにもかかわらず「一等賞だった」と母親に伝えるようなもので,本来はかわいらしいものです.小保方さんが小学1年生だったら許せたのではないですか? 他の研究者には迷惑をかけましたが,患者には迷惑をかけませんでした.狙いは自慢したかった.もう一つはディオバン事件です.ノバルティスの日本支社が,自社の儲けを狙いとして臨床研究データをねつ造したもので,有効でないものを有効として患者に不誠実でした.STAP細胞事件が子供の嘘としたら,ディオバン事件は大人の嘘です. でも自分も少し間違えたらやってしまいそうではないですか.3年前に仲間が還暦を祝うパーティをやってくれましたが,年を取ると自慢話が好きになりすぐに尾鰭をつけようとします.みんなの心の中には小悪魔が潜んでいるのです.また,意図的でなく無知のためにやってしまう嘘もあります.統計の誤利用です.これは悪気なく患者に迷惑をかけます.いわゆる業務上過失傷害です.

PRiNCEでは,お互いにいつも研究不正を意識して,領域の違うもの同士が批評し合いながら,お互いに助け合って,患者に対して誠実で患者にとって意味のある研究を支援したいものです.研究のための研究はやめましょう(博士号取得のため,専門医取得のためは別として).

コンセプトを整理すると…

1. 患者に役立つ研究

2. 正直で誠実な研究

3. 臨床と統計の融合

4. 研究倫理の遵守

これらを満たすには,計画の時点から実現可能であること,新奇性があることを意識しておかなくてはなりません.臨床研究を進めたいと考えている人たちがいっしょに学べる場を提供し,各関連施設や各臓器グループの研究の発展を目指しましょう.

今回PRiNCEを立ちあげるにあたり,名古屋市立大学小児科の齋藤伸治教授に快く承諾していただきました.この場を借りてお礼申し上げます.

                                      PRiNCE(名古屋小児臨床研究塾)

                                         塾長 上村 治